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沖縄の伝統漁船「糸満サバニ」職人を訪ねて
あなたはサバニをご存知か?
沖縄随一のウミンチュのまち、糸満。
沖縄本島の最南端に位置しており、古くから漁業が盛んなことで有名です。
そんな糸満の漁師たちがかつて漁に出る時に乗っていた船といえば「サバニ」と呼ばれる小型の木造船。近年では漁船のほとんどがFRP(繊維強化プラスチック)など加工がしやすい化学素材で作られるようになりましたが、現在もなおサバニを作り続けている数少ない職人のひとりが糸満にいるとのことで訪ねてきました。
訪れたのは糸満市西崎にある糸満漁協漁船保全修理施設。船舶の修理や改造などを行う漁協の施設で、こちらの管理人として船舶修理業に携わる傍らサバニを作り続けているのが大城 清さん。御年74歳。
若々しさ!
大城さんは2013年に、マリンスポーツやレジャー分野で活動し顕著な実績を残した個人、団体に贈られるという「MJCマリン賞2013(文化・普及部門)」を受賞。糸満式サバニの伝統的な造船技術と帆漕技術の継承を行っている、糸満サバニに関する第一人者でもあります。
さきほどの漁船保全修理施設に併設しているサバニの作業スペースでお話を伺いました。
まず目に付くのが、床に並べて置かれている二枚の木の板。こちらは大人数がいちどに宴会できる長テーブル…ではなく、サバニの両側面に使用される杉板です。
半割の状態(セコイヤチョコレートを想像していただくと分かりやすいかと)で本土から入ってきた杉の木を、サバニの寸法に合わせて薄く切り乾燥させている状態だそうです。今年の沖縄は梅雨の雨量がものすごかったので、なかなか乾燥が進まなかったのだとか。
釘を一本も使わない耐久性に優れた造り
サバニの語源は、かつて主にサメ漁に使われていたことから「サバ(沖縄の方言でサメのこと)漁に使うンニ(沖縄の方言で舟)」が縮まって「サバンニ、サバニ」となったという説が有力だそう。漁師のことを沖縄の方言で「海歩人(ウミアッチャー)」と表現しますが、仕事をする(通う)ことを「歩く」と表現するのが沖縄ならではの言い回しで面白いですよね。
大城さんが造ったサバニ
文献によると、サメ漁が盛んに行われていたのは琉球王国時代に中国との交易品として重宝されていたフカヒレを獲るためだったという記述があり、またサメの肝油はサバニのメンテナンス用として船体に塗り込むことで木割れを防ぎ耐久性を高めていたのだとか。サメ漁とサバニには深い関わりがあったことが伺えます。
サメの油を塗り込んだサバニは色が黒くなる
大城さんによれば、サバニは造られた地域や形状、構造、用途によっても様々な呼び方があり細かく使い分けられていたそうで、造りでいえば、一本の丸太をくりぬいて造った「マルキンニ(丸木舟)」、複数の板をはぎ合わせて造った「ハギンニ(はぎ船)」、用途でいえば、方言でイノーと呼ばれる浅瀬で使われる「イノーアッキサー」、サメ漁など外洋で使われる「フカアッキサー」などなど。つまり、「サバニ」というのはそれらの総称というわけですね。
サバニ造りに欠かせない船大工道具のひとつ、カンナ。
それぞれカーブの角度が違っており、サバニの底部分の曲線をこのカンナで削って滑らかに整えていくのだそう。
その他にも作業場にはサバニ造りに必要な道具がいろいろと。
大きさにもよりますがサバニ一隻を造るのに必要な期間はだいたい三ヶ月ほど。ただ漁船の修理など他の仕事も行いながらなので、実質半年以上はかかるそうです。
この蝶ネクタイのような形のもの、何だか分かりますか?
これは方言で「フンドゥ」と呼ばれる部材で、サバニの板と板をつなぎ止める役割をする「くさび」です。よく見ると上面と下面は全く平行にカットされているのではなく微妙に長さが違っており、断面が台形になっているのが分かるでしょうか?
この角度をつけることで木と木が強くつなぎ止められ、簡単には抜けない構造になっているのです。釘などの金属類を一切使わず木だけでできているため、海水で錆びたりすることなく耐久性に優れている点もサバニの大きな特徴です。
大城さんがサバニ造りの技術を学んだのは舟大工だったお父様から。
元々糸満の漁師だったお父様が、南洋で本土の船大工から教わった和船の作り方をヒントにサバニの原形を造っていったのではないかということです。
南洋からの引き上げ後、地元の糸満で資料などを見ながら手探りでサバニ造りを始めたそうです。幼かった大城さんも、家の庭先にいつもサバニが二隻並びお父様が仲間と作業していた光景を覚えているそう。
そして大城さん自身も自然とサバニ造りを手伝うようになったのですが、数年後にお父様が病を患い仕事ができなくなったため、大城さんが引き継いで一人で造るようになっていったのだとか。
現在はお弟子さんの高良 和昭さんと二人でサバニ造りを行っている
いっぺー上等な「キランニ」を目指して
糸満では、美しいことを表す沖縄方言「美ら(ちゅら)」のことを「きら」と言うそうで、美しく仕上がったサバニは「キランニ(キラブニ)」。反対に不格好なものは「ワーントーニ(豚のエサ箱)」と言われるさ、と大城さんは笑います。豚のエサ箱とはあんまりですが、それだけ完成されたサバニは強く美しく、芸術的価値の高さも見出されていたということではないでしょうか。
サバニが漁船として使われる時代は終わってしまったけれど、大城さんはここ数年は年に1隻程度のペースで新しいサバニを造り続けているそうです。ハーリー行事に使うサバニや観光協会が体験などに使うサバニ、企業のカンパニーサバニ、個人愛好家からのマイサバニの注文などもあるのだとか。
今週末、サバニが慶良間の海を渡る
そして、大城さんと高良さんが自ら造ったサバニの性能確認も兼ねて毎年出場されているというのが「サバニ帆漕レース」です。
慶良間諸島の座間味島をスタートし那覇へと向かって約35kmの距離をサバニで走る海洋レース。帆漕(はんそう)とあるとおり、サバニに帆を張って風を読み、ウェーク(櫂)を漕いで進みます。
2000年の沖縄サミットをきっかけにスタートしたこのレースは今年で25回目。沖縄県内をはじめ県外からも、そして中学生から70代までと幅広い年齢の人が参加しているそうです。
【YouTube】SABANIOfficialチャンネルより
実は私も10年以上前に一度だけ友人のチームに参加させてもらったことがあり、体力的にはかなり過酷なレースでしたが、それ以上に慶良間の海の美しさ、帆に風を受けてサバニが海を滑るように疾走するワクワク感に感動したことを覚えています。途中、波が高い海域で船酔いしてしまい、撒き餌をしながら必死にウェーク(櫂)を漕いでいたのも良い(?)思い出です。
【YouTube】SABANIOfficialチャンネルより
大城さんは60歳を過ぎてからサバニ帆漕レースに参加するようになったそうで、「清さんはサバニレースに出始めてから毎年若返ってますよね」と高良さん。「去年のレースは本当に過酷だったよな」と、レースの話になるとお二人とも少年のような表情になるのが印象的でした。
そのサバニ帆漕レースの今年の開催日は今週末の6月30日(日)。
沖縄の梅雨明けを知らせる季節風「夏至南風(カーチベー)」が吹き始める直前の、梅雨明けのこの時期に毎年開催されています。_那覇近辺の高い場所から慶良間方面を眺めると、帆を張ったサバニが海に浮かぶ様子が見られるかもしれません。
またゴール後の夕方からは那覇の泊緑地で表彰式が開催されるので、お近くにいらっしゃる場合はぜひその熱気を感じてみてはいかがでしょうか。
漁に使うという本来の使い方は廃れてしまったけれど、世界でも類をいないサバニの歴史的背景や工芸品としての価値の高さなどを後世に伝えるべく、サバニの造船技術そのものを文化財として登録するべく奔走中だそうです。
なにより、たくさんの人にサバニに興味をもってほしい、触れて欲しい、というのが大城さん、高良さんの願いでもあります。
サバニの体験乗船は糸満市をはじめ県内数ヶ所で体験することができるので、沖縄ならではの観光アクティビティのひとつとしてもおすすめ。糸満ウミンチュの叡智が生み出したサバニの魅力にこの夏、ぜひ触れてみてください。