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油味噌で味噌汁を作れば豚汁ができるんじゃないか
沖縄のソウルフード、アンダンスー(油味噌)
アンダンスーは味噌の油炒めのことで、主に細かく切った豚肉を炒めて味噌・砂糖と合わせて作られる保存食です。沖縄ではこのアンダンスーが白飯の友としての確固たる地位を築いていて、コンビニのおにぎりでも「油味噌」(一般的に「味噌おにぎり」と言われる)のおにぎりはレギュラー商品として陳列されています。
県内スーパーでも通常の味噌コーナーとは別に、油味噌が並ぶコーナーがあり色々な種類の油味噌が販売されており、割と一般的な調味料として認知されているように思えます。沖縄に来た当初はなんとなく甘い味噌になじめなかった僕ですが、だんだんクセになってきて最近は進んで油味噌のおにぎりを買ったりと油味噌党の一員として研鑽の日々を送っています。
しかし、僕には油味噌について前々から心に引っかかっている事があるのです。
油味噌の用途は白米にかけて食べられることが一般的です(ほぼ100%なんじゃないだろうか)。豚肉を使って作られた味噌。これで味噌汁を作ればどんな味噌汁も「豚汁」になるんじゃないでしょうか。
…いや、なんとなくならない気はするんですよ。でも試してみたらひょっとしたらひょっとするかもしれないじゃないですか!
油味噌で豚汁を作る試み
こういう記事をやるときに必要なのは「勢い」。それだけです。深く考えると一歩も前に進めなくなるので、まずは油味噌を買ってきました。
買ってきた油味噌その1。前原みそ工場というところが製造している油味噌です。原材料は米みそ、豚肉、砂糖、調味料となっています。割とオーソドックな感じの油味噌です。
買ってきた油味噌その2。こちらは株式会社ホクガンHYというところが製造している油味噌です。原材料は味噌、砂糖、豚肉、植物油、ごま、生姜となっています。
最後は同じ株式会社ホクガンHYの油味噌(カツオ)です。油味噌なのにカツオ?と思われる人もいるかと思いますが、油味噌は味噌の油炒めなので実は具材はなんでもよいみたいです。「沖縄大百科事典」には
焼魚やタコ、イカを使ってもおいしい。脂のしぼりかすに味噌と砂糖を加えて作ることもある
(『沖縄大百科事典』 1983 沖縄大百科事典刊行事務局 沖縄タイムス社)
と記載されています。まぁこれで味噌汁を作ったところで豚汁には絶対ならないのですが、いい出汁がでるんじゃないかと思って買ってきました。
以上3種類の油味噌を使って味噌汁を作ってみます。
具材はすでに調理済みのものを用意。
味噌から出汁的なものがでるんじゃないかという期待から水のみで煮立てます。
あとは油味噌を溶かして
できあがり。普段使いと違う使い方なので、ほのかに背徳感が漂います。見た目は普通の味噌汁ができあがりましたが、豚汁になっているのでしょうか…!
油味噌の味噌汁は豚汁なのか
さて、上の写真がそれぞれの油味噌で作った味噌汁です。ひとつずつ味を見ていきましょう。
まずは前原みそ工場の油味噌。見た目は普通に味噌汁です。
気になる点としてはいくら探しても豚肉的なものが見つからないこと。まぁそもそも油味噌で豚肉を感じることってそんなにない気がするんです。
気になる味は…
甘い。
まぁわかりきった事だったのですが、油味噌って砂糖が入ってかなり甘めに仕上がっているんですよね。味噌汁にしてもその甘みが消えることはなく、油味噌そのままの味の味噌汁ができてしまいました。見た目の普通さと汁の甘さに頭が混乱します。
肝心の豚肉は見当たらないし、豚肉の風味的なものも全然感じないので甘い味噌汁を飲んでる状況です。これは断じて豚汁じゃない。
続いては株式会社ホクガンHYの油味噌を溶かした味噌汁。先の前原みそ工場のものよりやや黒くなりました。
原材料にごまの記載があったとおり、表面にゴマが浮かんでいます。
味はなんと形容したらいいのか。完全に味噌汁の味じゃ無いし、豚汁でも絶対ないのですが、なんだか油味噌とも違う、曖昧な飲み物ができあがりました。ここまできてなんですが、全体的に旨味的なものが乏しいのでちゃんと出汁を取れば良かったと思いました。
最後は同じホクガンHYのカツオ油味噌。色が赤だしみたいになってます。
もう、全然期待してなかったのですがこれはちょっと美味しかったです。他の油味噌と比べてちょっと深い味わいがあるのです(やっぱり甘いけど)。これは何かといえばカツオの風味で、油味噌でかけ離れてしまった味噌汁の味をカツオの味が少し味噌汁側に戻してくれてる感じです。
いや、まぁそんなに美味しいわけではないのですが、うまく調整すればひょっとしたら美味しいものができるんじゃないか、という一条の光は見えました。豚汁じゃないけど。
油味噌を溶かしても豚汁はできない
というわけで、結論から言えば油味噌を使って味噌汁を作っても豚汁にはならないし、おいしい味噌汁もできないというのが本日の結論でございます。味噌に砂糖が入ってるのがくせ者で、この甘さがどうも味噌汁にするにはネックな気がします。
『料理沖縄物語』古波蔵保好著 1983
しかし、DEEでも度々紹介している、首里生まれのエッセイスト古波蔵保好さんのエッセイ『料理沖縄物語』には油味噌について以下のように書かれています。
豚肉のひとかたまりを、できれば皮付きで買ってくると、十分に茹でる。茹でたのをサイコロ型に切り、火にかけた鍋に入れると、次に味噌をタップリと加え、肉と味噌とがなじむまで炒めたのが「あんだんす」だ。味噌の分量は肉の三倍から五倍くらい。
このエッセイでの作り方には砂糖が加えられておらず、かつ結構肉が入ってる感じがします。油味噌の種類によっては味噌汁に最適なやつがひょっとしたらあるのかもしれません。たぶん。
油味噌については具材含めて結構バリエーションがありそうなので、(もう豚汁は作らないと思うけど)また種類が集まったら何かで紹介できればと思います。