いにしえのあまがしを再現してみる

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旧暦5月4日に食べられる「あまがし」を皆さんはご存じだろうか。文献を紐解くともともとあまがしは大麦を発酵させたものだったらしい。というわけでいにしえのあまがしを再現してみた。

あまがしとぜんざいの微妙な違い

今日は「あまがし」の話をしようと思います。


県内スーパーでも市販されてます

あまがしとはもともとは旧暦5月4日の「ユッカヌヒー」で出される祝い料理のひとつで押し麦と緑豆を黒砂糖で煮込んだもののこと。現在はスーパーで通年販売されていて子どものおやつなどとして活躍しているようです。

ユッカヌヒーのおもちゃ
あまがし。となりはちんびん

ユッカヌヒーは子どもにおもちゃを買って与え、あまがしとポーポーやちんびんを食べるという日で沖縄版「子どもの日」みたいな位置づけになるんじゃないかと思われます(上の写真は『沖縄の民俗』 琉球放送創立20周年記念誌編集委員会 1974年より)。この日はハーリーも行われます。

あまがしによく似たものに「ぜんざい」がありますが、ぜんざいは主に金時豆を黒糖で煮込んだものです。金時豆を使うのは米軍統治下の影響ということであまがしは伝統的な儀礼食、ぜんざいは戦後になってあらわれたおやつということになるんだと思います(かき氷が上に乗っているかどうかなども異なりますけど)。


この本、ものすごく面白いのでオススメです。

で、この間「料理沖縄物語」という本を読んだんです。この本は首里生まれの新聞記者、評論家、エッセイストの古波蔵保好さん(この人は琉球料理「美栄」のオーナーだった)が沖縄の食について書いたエッセイをまとめた本なのですが、そこにあまがしについて以下のような記述があるのです。

首里の旧家で育った人の話によると、「あまがし」とは大麦をついて割り、水タップリの粥に炊いてから青こうじを入れて、一晩発酵させたものだったそうである。

いわば大麦の粥で、酸味のある飲みものだ。椀にとって、すする前に、少しの砂糖を加えて味を調えたらしい。梅雨が明けて、家へ吹き込む風に、陽の匂いを感じだす季節となっているので、発酵した大麦粥の酸味がとても気持ちよかったという。

いつのころからかそういう「あまがし」は忘れられて、私の家でつくったのは、モヤシの材料にも使われる青い豆—「ささげ」といわれる豆と大麦を煮て、黒砂糖の甘みを加えたものだった。

現在、「あまがし」といわれているのは、すべてこの大麦と青豆による甘い汁である。

「いとしきぽうぽう」『料理沖縄物語』古波蔵保好著 1983

つまり、今僕らが食べているあまがしはもともとは大麦を麹で発酵させただけの飲み物だった、ということらしいです。そうなるともともとのあまがしがどんなものだったのか、気になる所。長々前置きを書きましたが、本日は「昔ながらのあまがしを作ってみる」という企画です。

 

麦を煮て麹を入れる

というわけでまずは麦と麹を用意しました。

エッセイでは「大麦をついて割り」と書かれているのですが、未加工の麦が見つからなかったので押し麦で代用、「青こうじを入れて」の青こうじというものがどういったものか不明だったので、普通の米麹を用意しています。

本文中には分量が出てこないのですが、麦で作った粥を発酵させるということで恐らく甘酒の麦版という認識でよいのだろう、ということで麹の後ろに書いてあるレシピを参考にしました。とりあえず押し麦は150g。

押し麦を煮ていきます。

しばらく煮込むとかなり麦が柔らかくなって粥状になってきました。

これを少し冷まして、細かく砕いた麹を加えて混ぜ合わせます。エッセイ通りに行けばこれを一晩おいたものが昔首里の旧家で作られていたあまがしになるのではないでしょうか。…若干の不安は残りますが。

 

昔ながらのあまがしはどんな味なのか

翌日です。

麹を混ぜて、一晩おいた麦粥がこちら。見た目は昨日とあんまり変わっていない気がします。

とりあえず盛り付けてみました。かなりおおざっぱに作ったのでこれであってるのか分かりませんが、なんとなくそれっぽいといえばそれっぽい気がします。

市販されているあまがしとも並べてみました。


キャンプなど行楽のおともにもいいらしいです。

ちなみに冒頭であまがしとは「緑豆と大麦を黒糖で煮たもの」と説明しているんですが、市販のものには緑豆は入っていないようで、代わりにぜんざいと同様金時豆が入っているようです。

そうなると、あまがしは大麦の粥を発酵させたもの→大麦と緑豆を黒糖で煮たもの→大麦と金時豆を黒糖で煮たものと変遷しているようです。ぜんざいとの区別は大麦の有無なのかもしれませんが、お店によっては押し麦が入ったぜんざいもあるようなので両者の違いはほとんどないことになります。

まぁとりあえず食べてみましょう。

まずはにおいから。特に酸っぱいにおいがするわけでもなく、麦の香りが漂います。

気になる味は…ほのかに甘い。エッセイだと「酸味のあるのみもの」と書かれているのですが酸味はほとんどなく、麦の味とほのかな甘みしか感じません。結構麹を入れたつもりだったのですが(麦150gに対して200g)、ひょっとしたらまだ発酵が足りてないのかもしれません。しかし、これはこれでおいしいです。

「すする前に少しの砂糖で味をととのえた」ということで黒糖を溶かしたものを加えてみます。


…ほう!

なんだかぐっとあまがしっぽくなりました。

市販のあまがしも食べてみました。まぁこれは普通にうまいのですが、麦のやつを食べた後だと甘過ぎる気もします。エッセイでは「梅雨が明けて、家へ吹き込む風に、陽の匂いを感じだす季節となっているので、発酵した大麦粥の酸味がとても気持ちよかったという」とも書かれていて、今よりももっと自然な甘さで爽やかな飲み物だったようです。

 

今年のユッカヌヒーは6月19日。

というわけでいにしえのあまがしを作ってみるという本企画、いかがだったでしょうか。割とうまくいったのでオチに困るところなんですが

困ったことといえば、あまがしを作りすぎたということくらいでしょうか。…とりあえず冷凍してすこしずつ食べていきたいと思います。

これから沖縄は梅雨入りしてジメジメした天気が続くと思いますが、「ハーリー鐘が鳴ると梅雨が明ける」といわれていてハーリー鐘が鳴るのは旧暦5月4日のユッカヌヒー。今年は6月19日が旧暦5月4日にあたりますので、気になった方はぜひ6月19日の梅雨明けにあわせて昔ながらのあまがしを作ってみて下さい。

あと、とりあえずエッセイをもとに作ったのでうまいとか書いてるんですが本当にこれであってるのか不安が残ります。いにしえのあまがしについて情報をお持ちの方がいらっしゃったらぜひ、編集部にご一報くださいませ。

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