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宮古島でシュールにはまる「恵子美術館」
ひときわ異彩を放つ建物
宮古島・平良の下里通りを歩いていると、青色の怪しげな建物「恵子美術館」に遭遇します。目のシンボルマーク、人の顔のタイルが張り巡らされ、明らかに普通ではない、カオスの予感がします。
ひぃ、こっち見てる
ショーウィンドには「怖くて不思議な美術館」と書かれ、たくさんの入館者の写真が貼られています。過去に雑誌やテレビなどたくさんの取材も受けているようです。
これは入らなくてはいけない。そんな義務感すら覚え、家族で入ることにしました。
造りはバリアフリーなのに
入り口からして情報量が多すぎて入りづらい。
ドアを開け恐る恐る覗き込むと、ドアチャイムの音に気づいたスタッフの方が出迎えてくれました。
いざシュルレアリスムの世界へ
この恵子美術館は、地元出身の洋画家・垣花恵子さんの作品を中心に、内外の美術家からの寄贈作品を展示されています。沖縄県では唯一、全国でも珍しい超現実(シュルレアリスム)・幻想美術を中心とした私設の現代美術館として1998年1月1日にオープンしたとのこと。展示は1階のみで2階は住居になっています。
入館料は大人500円、小学生以下は無料。
案内してくれたのは、山田八郎さん。
「ここの両側に立ってみてください」
すぐさま「仮説Xⅰ」通称「帽子落としの絵」を解説してくれました。
- 旦那です
- あや取りが苦しいのでしょうか?
床に張られた鏡を両方から覗き込むと、天井に張られた絵が見る角度によって変わり、女性とヤギがそれぞれ見えます。下を覗き込むときに帽子が落ちるから「帽子落としの絵」。
「最近は帽子を被る人は少なくなったけど、まだたまにサングラスなどを落とす人はいますよ。サッカー選手なんかへディングが凄いから、入り口まで飛んでいっちゃたりして(笑)」
「へえー」
次に説明してくださったコラージュによる作品。
建物に使われているタイルの元になった顔の絵が含まれています。「孤独」というタイトルのこの作品は、垣花さんが病気を患い、目が見えなくなるかもしれない、病気が治らないかもしれないという不安の中で製作された小作品が組み合わされてできています。油絵の具が目に悪いという理由で、クレヨンで描かかれています。
外壁に使われているタイルは、台湾の会社が2千枚を無償で作ってくれた物。観光客からこのタイルを売ってほしいと言われることもあるが、予想していなかったそうです。小さくして美術館グッズとして販売したら売れそうですね。
山田さんの解説付きで、他の絵も観てまわりました。前半は垣花さんの大作が続きます。
夢に出たら泣いて謝るレベル
「仮説Ⅱ」というタイトルの絵。死んでいくと天使と、それを見ているこれから生まれる命を表現しているそうで、日本人のお客さんの多くが、一番怖いと言う絵だそう。
多くの絵のモチーフになっている顔が怖いインパクトがあるおばあさんは、恵子さんの103歳で亡くなったおばあさんがモデルだという。自分は宮古で1・2を争う美人だったと自慢し、腰まで髪を伸ばした人だったそう。
そもそも、「シュルレアリスム」は第一次世界大戦後のフランスで始まった、理性の支配をしりぞけ、無意識や夢や幻想など非合理な潜在意識の世界を表現する芸術運動のこと。シュルレアリスムの作品は、「帽子落としの絵」のような遊び心に富んだ仕掛けがあったり、見る者に「不思議」「不条理」「奇妙」といった世界を見せることで、インパクトを与え強い混乱を起こすところが面白い。
しかし、垣花さんの作風は、おどろおどろしいと感じてしまうほどインパクトがあります。自然や生命といったテーマと精神世界を混ぜこぜにして、生々しい感情の熱を持った画材を塗り固めたような、迫ってくる力強さを感じました。垣花さんの表現したいという激情が伝わってくるようです。
諸星大二郎先生の漫画に出てきそう
落ち着けない休憩コーナー
垣花さんの作品のほか、数十点展示されている日本国内の芸術家からの寄贈作品も、当然シュルレアリスム。
題名は忘れましたが、本土の人は首を絞めあっていて苦しそうだと感じるが、沖縄の人はじゃれあっていると感じるという絵。パッと見はわからないが、とんでもなく手間がかかっている絵など、山田さんはそれぞれの絵について様々なエピソードを時には脱線しつつ、たっぷり語ってくれます。
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「南島針突紀行」の著者が
ハジチをモチーフにした乾フレスコ画。
- たぶん山姥?
トイレの手洗いにかけられた鏡。自分の顔が額縁入りの絵みたいに見える遊び心。
一通り観終ると、山田さんが「どの絵が怖かったですか?」と嬉しそうに聞いてくるのです。たくさん観すぎて感覚がおかしくなったようで、どれもこれも甲乙つけがたいです。
「恵子美術館総合ディレクター」の肩書を持つ山田さんは、企画や展示、施設管理、ホームページなどの広報をたった一人でしているとのこと。
「大変ではないですか」と尋ねると、山田さんは笑いながら次のように語ってくれました。
他の美術館のように堅苦しくなく、気軽に観てほしい。ここは親近感があるでしょう。入りにくい概観で損をしていると言われたこともあるが、子供や観光客はこの外観に惹かれて面白がって入ってくるんですよ。子供が入りたいと言ったので来館したという家族連れも多い。中学校の授業以来、美術館に入ったという大人も多い。残念ながら地元客は少ないけど、小学生は下校途中に水を飲みによく来るので、子供用の絵本や学参書を置いているんですよ。
展示物が撮影自由なのは、観に来た人が気に入ったのであれば、その方が作家も喜ぶから。止めたほうが良い言われることもあるけど、昔はストロボの光が強く、絵を傷めることもあっただろうが、最近のカメラは性能が上がっているので、問題ないと思う。水彩絵の具は弱いがアクリル絵の具などは光にも強いんですよ。海外の有名な美術館でも最近は写真撮影OKだったりするでしょう。
「お金を払って観てもらう美術館なのだから」という言葉から、真摯な姿勢が伝わってきます。
子どもの頃から刺激的な芸術に慣れ親しめるとは羨ましい。
それから私たち家族の後に入館してきたお客さんにも、丁寧に解説する山田さん。
最後に山田さんはデジカメを取り出し、「気に入った絵があれば、絵の前に立って、写真を撮らせてください。表に張りますから」
ショーウィンドの写真の中に、我が家の記念写真も加わることになりそうです。
「また来てください。毎年展示の入れ替えもしてますから」そう言って、山田さんはにこやかに私たちを送り出してくれました。
小さい美術館ながら本格派、収蔵作品はどれもちょっぴり怖くて面白い、表現したいという情熱が伝わってくる作品ばかり。そして、美術館としての理念や山田さんのお仕事は、それを伝えようとする熱意にあふれています。垣花さんは、現在も製作を続けていて、県内でその作品が常時鑑賞することができるのはここだけとのこと。地元の方も宮古島を訪れる方も、気軽に怖いもの見たさでシュールな世界にはまってはいかがでしょうか?
恵子美術館
住所:沖縄県宮古島市平良字下里592
開館日:午後1時~5時
休館日:水曜日
ウェブサイト:http://e.gmobb.jp/keiko-artmuseum/
ゲストライター
- AYA
- プロフィール:生まれも育ちも沖縄本島。県民に多い苗字ベスト3入りする苗字だったのに、九州出身の旦那をもったばかりにイチイチ説明が面倒くさい。殺人事件が起こるドラマが好きでしゃべる機械キャラ萌え。