2013.07.29

【入りにくい店に入ってみた】司屋

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好評のシリーズ【入りにくい店に入ってみた】。すごく入りにくい店構えだけどなんだか気になっちゃうあの店この店、意を決してどんどん踏み入れていこうと思います。沖縄にはディープなお店がまだまだたくさん眠っているのです。

沖縄の街を歩いていて大通りからふっと路地裏などに入ってみると、営業しているのかいないのかも分からない、ものすごく入りにくい雰囲気のお店に出会うことがあります。
通るたびに気になって興味はあるのに、扉を開けるのにすごく勇気がいるような。

そこにあえて挑戦していくシリーズ、名づけて【入りにくい店に入ってみた】。

第一回:食堂 自流
第二回:カムイラーメン喫茶
第三回:平和食堂
第四回:聚楽苑(じゅらくえん)
第五回:マカビペット店
第六回:お食事の店 ホームラン
第七回:すきやき&おでんハウス 笑
第八回:USレストラン
第九回:宮古島の丼喫茶
第十回:お食事処 栄
第十一回:マイハウス

今回は大通り沿いにあってすごく目立つのに入りにくい店からお届けしたいと思います。

 

誰もが一度は目にしたことがあるあのお店

国道58号線沿いの宜野湾市大山にある紫色の建物。かなり交通量の多い場所なので、みなさん一度は目にされたことがあるのではないでしょうか。

大通り沿いにも関わらず何故入りにくいのかというと、建物の色が奇抜な点と、取り扱っている商品が「カツラ」という特殊なものであるという点と、それ以外にもうひとつ。

!!!

そう、カツラ展示用のマネキン(首から上だけ)がずらりとショーウインドウに並んでいるのです。これは相当勇気が必要。

というわけでずっと気になりつつもなかなか足を踏み入れられなかったのですが、読者の方からも何通か取材してきてメールをいただいたこともあり、今回意を決して取材に訪れてみることにしました。

恐る恐る入口ドアを開けると、外から想像していた以上の数のマネキンがお出迎えしてくれました。

昭和の香り漂うカツラ。

和風なカツラ。アバンギャルドなカツラ。

もちろんスタンダードなものもあります
天女?(はごろも祭で使用したものだそうです)

店内のガラス棚いっぱいに並ぶ個性豊かなマネキンたち。
髪型はストレートヘアやウェーブヘアなどスタンダードなものから、アフロ、ラスタなどかなりぶっとんだものまでバラエティ豊か。髪色も黒から茶髪、金髪、白髪ミックスなどなんでもござれ。

なにやらチョロチョロと音がするので足元に目をやると、建物の中なのに池が(立派な鯉も泳いでいました)。

というように外から見る以上に怪しげな風変わりな店内ですが、お店の方に話を伺ってみることに。

 

お話を伺ってみました

こちらが司屋店主の宮城さん。

ーこちらのお店は何年ぐらいになるんですか?

開店してちょうど40年めになりますね。最初のうちは輸入化粧品とカツラの卸専門で営業まわってたんですが、もう途中からは店だけで売るようになって。それからは20年ぐらい。沖縄は狭いからみんなここまで買いに来ますよ。

ーどういうお客さんが利用されるんですか?

美容師向けの卸し、それからおしゃれ用。また病気やなんかで、薬の影響で毛が抜けてしまった人が買いに来たりもしますよ。

ー店内にものすごくいっぱいカツラがありますけど、いったいどのぐらいあるんですか?

スタイルだけで200はありますね。色も組み合わせると500ぐらいあるんじゃないですかね。外国に工場があって生産ラインがあるんですが、うちがデザインしてサンプルを送って、50個、100個とオリジナルで作らせているんですよ。
メーカーからは70%ぐらい完成した状態で送られてきて、最後にサイズを調整したり髪の毛の長さを調整したりと残りの30%はうちで仕上げています。

カツラはね、マネキンがかぶっていて可愛いからコレがいい、ではなくて合う合わないなんですよ。お客さんが店に入ってきて3歩あるいているのを見たらだいたい分かりますよ。あーこの方にはこれは似合う、これは似合わないって。なかには全部かぶってみたいという方もいるけどね。そうすると迷っちゃうんですよね。

 

特別に変身させてもらいました

せっかくなので私も宮城さんに似合いそうなものをいくつか選んでもらい、試着させていただくことに。

セミロングなのでまずは地毛をネットの中におさめて・・・

おでん屋のおばちゃん
キジムナー
宝塚スター
レゲエマン
エアロビのインストラクター
男爵

私に似合いそうなのを、とお願いしたはずなのに日常使いとはかけ離れた髪型ばかり出されたのはなにかの間違いなのでしょうか。

「あなたは顔がしっかりしてるからこういうのが似合うよ。これ(エアロビのインストラクター)つけて飲みに行ったらいいさー。ハハハハ」

本気で言っているのか冗談なのか分からなかったので、とりあえず愛想笑いで誤魔化しておきました。
ちなみに今回は取材ということで特別にいろいろ試着させて頂きましたが、普段は遊びの試着はできませんので悪しからず。

 

琉球舞踊用のカツラ

ずらりと並ぶカツラの中には、琉球舞踊で使う沖縄独特のカツラも数点展示されていました。

ーこれらも宮城さんが手作りされているんですか?

そうですよ。琉舞道場に化粧品の納品で出入りしている時に、ショートヘアの方や男性が女踊りをするのに女髪が結えず困っていたのを見て作り始めました。

琉舞用はさっき紹介した工場で一括生産する一般用カツラとは違って、輪郭や生え際、首の長さに合わせて型取りからひとつひとつ全てオーダーメイドなんですよ。写真を送ってもらうか、来店するかどちらかでないと作れません。電話一本ではできないんですよね。

最初は簡単そうだなと思って始めましたが、やればやるほど難しいですね。これを作るときはとても真剣。ちょっとでも形が崩れたらダメだから。気持ちがのらないとできません。

いざ完成しても、頭にポンとのせたように見えたり、結った部分が作り物だなと分かってしまっては国立劇場の舞台なんか立てないさ。自然に見えないといけない。知れば知るほど怖いんだよね。追求してしまう。花嫁のカツラもそうですが、この琉装のカツラはいちばん難しいんじゃないですかね。

ーひとつ作るのにどのぐらいかかるんですか?

細かい作業なので目も痛くなるし、これだけつきっきりにできないので、今はどんなに急いでも一ヶ月はかかります。長時間続けては作業できないですよ。

完成したときは、あーもうやりとげた!というほっとした気持ち。作業に入ると食事も時間も分からない。手に油もついているし、飲み物食べ物一切やりませんよ。もう集中。

 

作業場も見せてもらいました

店の奥に宮城さんの作業部屋があるとのことで、今回特別に見せていただけることに。ちょうど、通称「ポックリ」と呼ばれる琉舞の髪型の上にのせる部分を作っているところでした。

作業部屋の中には製作途中のカツラがいっぱい。丹下左膳か落ち武者か...。

細かい部分を見るためのメガネ
専門的な道具もいろいろ

奥に見える緑色のジェル状のものは特殊なポマードを特別に調合したもの。これをツゲのコームにとり、毛束の流れを美しく整えていきます。

この艶たるや!
毛束を土台の周囲にぐるりと巻きつけていく作業なのですが、ポマードの量が多すぎても少なすぎてもうまくいかないそうで、微妙に量を調整しつつ何度もコームでとかしつつ、決して毛の流れを乱さず丁寧に丁寧に。徐々にポックリの形ができあがってきました。

使用する毛束の量によっても髪を押さえる力加減ががらっと変ってくるので、人に教えようとしてもなかなか難しいのだそう。

最後にジーファー(かんざし)代わりの箸を刺し込み固定して完成です。

見よ、この一糸乱れぬ見事な仕上がり!!!
端で見ていても、相当な熟練の技術を要する職人技だということがわかりました。しかも最終的にはたったジーファー1本とピン1〜2本程度で固定されていることにも驚きです。

このようにしてここで作られたポックリが、どこかで誰かの頭の上でしっくりと馴染んでいる様子を想像すると思わず嬉しくなってしまいますね。

 

ありがとうございました

というわけで、国道58号線沿いにある紫色の建物、かつらの総合メーカー『司屋』さんからお送りしました。
入りにくい外観からは想像のつかない、素晴らしき職人の世界をのぞかせていただきました。


(誰かの頭上に旅立つその日を夢見るポックリたち)

宮城さん、お忙しいところどうもありがとうございました。
これからも美しいカツラを作り続けてくださいね!

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