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ありがとう、さようなら「Big大ちゃん」
沖縄市のドカ盛りの老舗Big大ちゃんが閉店に
沖縄市に『Big大ちゃん』という、ドカ盛りでその名を馳せた老舗の食堂がある。この街で育ってきた友人は、「ビッグマックを食べることよりもむしろBig大ちゃんの一人前を食べきったことの方が、自分が大人になった事を実感した」と話す。
そんなBig大ちゃんが、2017年1月30日をもってその歴史に幕を閉じた。
あの味、あの雰囲気、あのボリュームを次の世代に引き継げない事はまことに残念ではあるが、せめて記録に残せればという思いで最終営業日に足を運んだので、この場を借りてご紹介したい。
Big大ちゃんを食らう
もしかしたらBig大ちゃんを知らない方もいるであろう。私も移住して2年くらいで知ったのだ。なのでまずは皆さんにBig大ちゃんがどれくらいドカ盛りだったかをご紹介したいと思う。
テーブル上にあるメニューを開くと、そこにはなんと数え切れないほどのメニューが推しならぶ。ラーメン、カレーに始まり、揚げ物、中華、そしてテビチや中身といった沖縄的な料理まで。果たして全てのメニューをたいらげた武士はいるのだろうか。そんなことを考えながらふと壁に目をやると・・・
幕下力士の木崎が足繁く通っていたことがわかる写真が貼ってあった。滅多に取材に応じないと噂(テレビやラジオはNG。もちろん今回の取材もNG)の店主も写っているではないか。普段は黙々と鍋を振るう強面の店主、実にいい笑顔です。
それでは当日注文した5品を、メニューの紹介を兼ねて発表したいと思う。
チャーハン定食
中華食堂らしい、パラリと炒められたチャーハンは驚くほどにアッサリとした味つけ。具材も挽肉に長ネギと卵と極めてシンプル。付け合わせのスープの濃さが丁度良かった。
チキンカツ定食
まさかのチキン3枚がズラッと並ぶ大皿を前に、一瞬何をしていいのかわからなくなる。そんな衝撃的なこの定食は、一日のお客さんの約半分が注文するという定番かつ大人気メニューだったという。
スペシャルCランチ定食
なんというアンバランス!
ライス、サラダ、スープ、野菜炒め、和え物、キムチ、コロッケ、目玉焼き、トンカツ、白身魚、ポテトフライが出てくるというスペシャル過ぎた名物。ランチなのに夜でも食べられる心強い味方だ。今回はさらにハンバーグとソーセージ、カレールーまで出てきた。写真以上に飯が足りない。
なお余談だが、数年前までお子様ランチが存在したのだが、それもどこの子どもが食べ切れるのだろうかという、恐ろしいくらいボリューミーなセットだった。
豚肩ロースステーキ定食
厚切りの豚肩ロースをソテーにして、野菜炒めとサラダと一緒に盛り付けられて出てくるやはり大満足の一品。付け合わせのソースが絶妙に旨かった。
こどもラーメン
ラーメンと書いてあるのに頼まないのもおかしいだろうと注文した子どもラーメン。前述の「お子様ランチ」でこのお店のスタンスを知っていたはずなのに、なぜ我々は気がつけなかったのだろうか。出てきたのは他店で一人前分のラーメンだった。鶏ガラだしがしっかりと効いた、旨い醤油ラーメン。
なお、かつてこのお店のレンゲは鍋物用なのかというくらいでかいレンゲが供されていた。老朽化も相まって現在はおよそ一般的なサイズであるが、いわゆる「でかいレンゲ」がいい!という常連さん用に1本だけ残してあるのだという。
色々聞いてみた
最終日の夕方、夕飯前で客足が落ち着いたこともあって、看板娘の奥さんに色々とお話を伺うことができた。
看板娘の阿嘉スエ子さん
Big大ちゃんの創業は昭和62年5月。沖縄市胡屋の豊年満作通りに店を構えていた当時は、中華ラーメンポパイという屋号で営業を開始した。
開店当初、店主(オーナー)の阿嘉さんは当時サラリーマンとの二足の草鞋を履いており、聞けばポパイという名前は、当時お店を任せていた方がつけたのだそうだ。その頃の胡屋といえば、ゲート通りや一番街に人が溢れかえっており、格安でドカ盛りを提供していたポパイもまた、地元民に愛されるお店になっていた。開店から半年で阿嘉さん自身も厨房に入り、次第に阿嘉さんがお店を切り盛りするようになった。
そして平成6年には現在の店舗である美里店を出店。沖縄県民だけではなく、米軍からのお客さんもひしめき合う人気店へと上り詰めた。
しかし平成10年、アメリカの同名のレストランチェーンから弁理士を通じて商標法違反を訴えられてしまう。
当時の看板はやはり同名のアメリカアニメのキャラクターとロゴを使用しており、今後も使用するのであれば使用料を支払えという通告だったため、現在の名前に変更したという。(そんなお店はあちこちにあったような気もするが・・・ベジータとか・・・)その後胡屋の店舗を閉め、美里店のみで営業を続けた。
「ポパイという店名に愛着があったから、本当はそのまま使いたかったんだけどね・・・」
と、お店の看板娘である奥さんは当時を懐かしむように語ってくださった。
路地裏から発展した国際問題。インターナショナル文化が入り混じるコザならではの、歴史を感じさせるエピソードだ。
次に「Big大ちゃん」という名の由来だが、胡屋で営業していた頃から、お店には多くの外人さんが来てくれていて、それで「Big」とつけたのだそうだ。そう、ここは沢山食べられるよという、店主の心意気を英語で示したというわけだ。
では「大ちゃん」は?
「大ちゃんの大は、大盛りの大です。それで子ども達に親しみを持ってもらえるよう、大ちゃんなんです」と奥さん。多くの人が愛するこのお店の店主夫婦の人柄が表された店名でした。
そういえばこのお店にはAランチとBランチはないのになぜいきなり「スペシャルCランチ」なのかも確認したところ、以前にもテレビ番組で聞かれたそうで、曰く「Aランチだと、エビフライが乗ってたりするし、Bと言うほど高級な食材を使えないし、でもスペシャルという言葉も使いたくて、それでB程ではないけどスペシャルな定食ですという事で、主人が命名したんです」と恥ずかしそうに語ってくれた。
ありがとう、さようなら「Big大ちゃん」
創業から30余年、地域住民からも観光客からもそして沖縄で生活した多くの外国人からも愛された地元の名店は幕を下ろした。
後継も考えたが、店主が開業以来続けて来たお店中心の生活を娘婿達に頼むことはしのびないと考え、一代で終えることを決めたと語る奥さんの目は、うっすらと涙を浮かべている。インタビューの間中、店内にはテイクアウト用の弁当を注文した常連さん達が行き来しては、閉店を名残惜しそうに店内を撮影したり、奥さんに話しかけたりしていた。
かつて交通事故に遭い、骨折した時でも、左腕にギプスを巻いた状態で鍋を振り続けた気骨溢れる店主、そしてそれを隣で支え続けた奥さん。この街灯が灯るのは今日が最後と思うと、悲しくてやりきれない。
ありがとう、そしてさようなら。
今まで沢山、ご馳走様でした。
ゲストライター
- 燻しの吟
- 茨城県出身。沖縄市から頑なに出ようとしない移住10年目。自作の燻製とももクロ、それにビールがあれば僕は幸せさ。