2014.03.31

カリスマスーパーバスガイド崎原真弓さんのツアーに参加した

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沖縄にカリスマスーパーバスガイドと呼ばれるバスガイドさんがいる。はじめてその人がガイドをするバスに乗って、ものすごく感動してしまった。そんなお話です。

カリスマスーパーバスガイド崎原真弓さんのツアー

バスガイドさんといえば「あちらに見えますのがxxxでございます」というように、手をかざして観光地や名所の案内をしてくれる人というイメージではないでしょうか。

しかし先日私がお会いしたバスガイドさんは「見えないものを伝えるのが私の仕事」とおっしゃいます。見えないものを伝える、とはいったいどういうことなんでしょうか。

本日は昨年NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも取り上げられた、カリスマスーパーバスガイド崎原真弓さんのツアーに参加したお話です。

沖縄の人に沖縄を案内するとは

そもそも今回のバスツアーはDEEokinawaが2度取り上げていただいたウチナー紀聞の番組ディレクター森井さんの発案によります。森井さんは8年前に番組で崎原さんを取材してから、ずっと仕事ではなくプライベートで崎原さんのバスツアーに参加するのが夢だったそうです。そこで、これまで森井さんが取材した人に声をかけ、「崎原さんと巡る金武町バスツアー」の企画をしたのです。


夢が叶って嬉しそうな森井さん

当日はバスツアー+せっかくなので金武まで行って遊ぼうと、こんな催しも行われました。

初めて会った人とお弁当交換をしたり
ゴールドホールの地下の隠し洞窟を見せてもらったり
お休みのはずのいしじゃゆんたく市場を森井権力で開いてもらったり
4月から開始のはずのネイチャーみらい館の田んぼあそび体験を森井権力でやらせてもらったり

なんだかいろいろすごかったのですが、今日はバスのことです。

口には出しませんでしたが、出発前のわたしには疑問がありました。
そもそも沖縄で育った人(在住の人)ばかりが乗ったバスに、どんな風にバスガイドさんが必要なんだろうか?と。
なぜなら、こちらに見えるのも、あちらに見えるのも、知っている景色や施設なのです。沖縄の歴史だってある程度は知っています。
でもきっと何かがあるに違いない。そんな疑問と期待を乗せてバスは出発しました。

沖縄を語り伝える

こちらがカリスマスーパーバスガイドの崎原真弓さんです。

「みなさん、はいたーい!
本日は沖縄文化、歴史、ルーツを訪ね、目には見えない『ちむぐくる』を肌と心で感じていただきながら、お過ごしいただきたいと思っております。」

崎原さんのツアーはこんな言葉からはじまりました。

最初は旅の安全祈願。沖縄では昔から道中の安全を祈願するのはオバーの役割だったそうですが、崎原さんの声色と口調が急に変わります。

「はー、しゃりしゃりしゃりしゃり。今日のゆかる日、まさる日に、おばんだてさりする世のため国のため人のため、ないるんしぇいるんするむんるん・・・あーとーとー、うーとーとー。」

聞こえた言葉を一部書き写しただけなのでこれでちゃんと合っているのかはわかりませんが、崎原さんにどこかのオバーが憑依したかと思うような安全祈願がおこなわれました。

最初の言葉にあったように崎原さんのガイドは「目には見えない『ちむぐくる』を伝える」こと。
そのために、なにをするにも独自の創意工夫に溢れているのです。

ここからは芝居がはじまるそうです。
登場人物の紹介もされたのですが。
語り(オバー):崎原真弓
母親:崎原真弓
幸子:崎原真弓
空手演舞:崎原真弓
唄:崎原真弓
オールキャストが崎原真弓さんのひとり舞台のようです。

崎原さんがオバーとして、沖縄の神話にある人類誕生から、狩猟農業時代、三山時代を経て琉球王国の繁栄、そして薩摩の侵略。と沖縄の歴史を辿る話をしてくれます。
「高速道路に入るのでシートベルトをしましょうね」など諸注意はときどきはいるものの、まるで歴史を見てきたかのような崎原オバーの話に引き込まれバスに乗っていることを忘れそうになります。

崎原オバーの語りを一部抜粋します。

「第二尚氏時代から、琉球は資源のない島国が発展していくためには果てしない大海原に目を向けるべきだと、貿易国家としてのダイナミックな道を広げていきましたよ。自分の国と関わっていく国々はみんないちゃりばちょーでー、みんな家族だから、共存共栄の精神、ともに生きてともに発展していく道を考え、先人たちは三角貿易を開発しました。
その頃からはもう戦争もありませんからね。床の間には三線を飾り、芸能を尊ぶ心を大切にし、中国や外国のお客樣方に唄や三線、芸能をご披露しながらおもてなしをして参りました。その中から琉球の芸能文化は発展していきましたよ。ところが、この平和な芸能を愛する琉球に悲劇が起こりました。
1600年の薩摩の琉球侵略です。この中に薩摩の出身の方はおられませんか?気を悪くしないでくださいよ、400年も昔の昔の出来事ですからね。でも薩摩が琉球に侵略したからこそ、琉球空手が生まれ、江戸上がりも義務づけられ、日本芸能と出会うきっかけとなったのですよ。」

「薩摩の侵略があってから、あれをしてはいけない、これはしてはいけないと縛られた琉球人たちは、こみ上げてくる怒りを武器に変えるのではなく、いかなることにも耐えられるように、これを機会に精神を鍛えていこうと考えました。そして武器を持たずに身を守る方法として、創意工夫をして琉球空手を作ったのです。空手に先手なし。琉球空手は受け身から入ります。この琉球空手は琉球王国の最大のピンチの中で発展していきましたよ。いかに先人たちが前向きに、プラス思考に、苦難を乗り越えていったかがわかると思います」

「では、一般道に入りましたから、その空手を見せましょうね」

動くバスの中で崎原オバーは空手の演舞をすると言います。


「テアー!」

もはやバスの形をした芝居小屋に来た気分です。
崎原オバーの語りは続きます。

「薩摩の占領下に置かれていなかったら琉球空手はなかったかもしれませんね。日本との出会いがなければ、琉球芸能もここまで華やかなに多彩に発展していなかったかもしれません。ですから琉球の先人たちの生き様はピンチをチャンスに変えて、災い転じて福となす。このような素晴らしい生き方を見せてくれました。」

「しかし世代わりの時代が来ます。江戸幕府が倒れ、琉球王国も450年の歴史に幕をとじ、琉球は沖縄県になります。
新しい時代が始まったと思ったのにね。また悲劇がこの島を襲ってきましたよ。
忘れようとしても、オバーは忘れることができない・・・。69年前の沖縄戦・・・」

小学生が犠牲になった対馬丸、声を出すことも許されない避難先のガマ(洞窟)の中で赤ちゃんが亡くなった話。
涙ながらに、その日のことを話すオバー。

車内からもすすり泣く声があちらこちらから聞こえます。
思わず外を見ると、いつの間にか天気が回復して海がキラキラ輝いていました。
何度も見てきた沖縄の海のはずなのに、オバーが語ってくれた沖縄の歴史が重なり、いつもとは違った景色を見ているような不思議な感覚でした。

「みなさんにオバーの悲しい話を聞かせて涙そうそう、鼻そうそうさせてごめんなさいね。
だけどね、あんたたちが生きていく時代、未来の子供たちが生きていく時代に戦争はあってはならんから、オバーは地獄のような戦争の話をしたよ。」

「愛する我が子を亡くし、戦争でなにもかも失ったけれど、沖縄の人たちはどん底から立ち上がり、唄って、踊って、そして心を奮い立たせ、先の見えない不安を抱えながら、みんなで励まし合いながらここまできましたよ。」

「みんなで唄って踊っていると心が明るくなるでしょう。あちゃーちばらやー。明日も頑張ろう。
明日という未来に、唄って、踊って原動力にしてきたからね。
だー、オバーはまた未来の幸せを願いながら、カチャーシーを踊ってみるから、みなさんも踊ってみましょうか。」

「さぁ、踊っている間にバスは金武に到着しましたよ。」

なぜ崎原さんは独自の方法でガイドをするようになったのか

現在はフリーバスガイドをされている崎原さんですが、もともとは高校を卒業してからバス会社の社員として観光ガイドをされていたそうです。でも社員として経験を積むほど、マニュアルに沿ったありきたりなガイドでは物足りなくなったとか。そして崎原さんはバスガイドをやめ県外に出ます。
仕事を辞め県外に出たことで、改めてバスガイドという職業と沖縄を見つめなおすきっかけになったそうです。
そして沖縄に帰ってからは会社に勤めることなく、フリーになって自分の方法で沖縄を伝えることを使命にされてきたそう。

崎原さんは言います。

「目に見えない部分、肝心ね、沖縄のルーツや移り変わる時代の中で先人たちが育んできたことを、黄金言葉(くがにくとぅば)で伝えていきたいと思っているんです。
わたしがやっているのは思いを唄や芝居にして伝えるので、地元のでも感動して涙と笑いでいっぱいになります。過去の歴史、先人達の思いを忘れない事と、それを未来に繋げていきたいと思います。」

「一番大切なのは、人との繋がり。私も人との出会いでたくさん出会った人が引き出してくれたものはあるし、チャンスももらいました。みなさんと会えるのは1回だけかもしれません。だから毎回、一生懸命やるんです。」

このバスに乗れて良かった

ということで、「見えないものを伝える」バスガイドの崎原真弓さんのツアーを一部ですがお届けしました。今回は行きの部分だけを抜粋しましたが、金武からの帰り道も1分1秒も無駄にしない、沖縄愛、人間愛に溢れた、心がいっぱいになるツアーでした。

「目には見えない『ちむぐくる』を肌と心で感じてもらいたい」と最初におっしゃっていた崎原さんの言葉通り、頭で知るとは別の感覚で肌と心に思いが染み渡り、とても温かい気持ちになりました。
一緒に乗った友人は「うちなーんちゅであることに誇りが持てた」と言ってました。

沖縄の人が沖縄を巡るバスにガイドさんがつくことは珍しいと思いますが、崎原さんのツアーは沖縄に住む人にこそぜひ体験してほしいバスツアーだと思います。
きっと沖縄のこと、行く土地のこと、そして自分のことが、今よりもっと好きになれますよ。

崎原さんのツアーは人気のため2年前から予約が入るそうですが、365日休みがないということもないので、スケジュールがあえば予約可能とのことです。
ただ個人で参加出来るパッケージツアーがあるわけではなく、基本的には今回のように団体のオーダーメイドのツアーしか今はやっていないようなので、崎原さんのバスに乗ってみたい方は内容などを下記まで相談してみてください。

リョービツアーズ

http://www.muscat-tour.co.jp/
086-224-3381

崎原真弓オフィシャルサイト

http://www.mayumie.com/

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